第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「ええ……平気よ」
答えた瞬間、右腕へ鋭い痛みが走り、思わず眉が寄る。
「平気な顔じゃねぇだろ……っ」
吐き捨てるような声の奥に、隠し切れない焦りが滲んでいた。
私は、握られていない方の手で、彼の袖をそっと引いた。
「ラビ。もう少し力を抜いて……あなたの方こそ、手が震えているわ」
ラビは、弾かれたように息を呑んだ。
握る力が、僅かに緩んだ。指先だけが、まだ私の手に残っている。
ラビは目を伏せたまま、口を開いた。
「……今のオレは、どうかしてた……記録者としての領分を超えてた……。忘れてくれ……あんなの、ただの暴走――」
「――嘘つかないでよ」
私は痛む腕を庇いながら、彼の団服へ指を添えた。
「また、忘れろって言うの?」
ラビの指が、ぴくりと動いた。
「あなたは、自分の身を削ってまで私を助けた。ブックマンとしてじゃない」
ラビの顔が、苦しそうに歪んだ。
「……っ、やめろ。これ以上、言わせるな……っ」
私の手を握る指に、力がこもる。
長い沈黙のあとで、ラビの肩から、ふっと力が抜けた。
その視線が、握られたままの私の手へ落ちる。
「お前が……連れ去られそうになった時……頭ん中、真っ白になった……」
私は何も言えず、彼を見つめた。
「……記録とか、掟とか、全部どうでもよくなった」
ラビが、奥歯を噛み締める。
「目の前でお前が消えていくのを……ただ見てるなんて……できるわけねぇだろ……っ!」
押し殺し切れない叫びに近かった。
「ブックマンとして失格だって分かってる……! でも、オレは……」
その先は、続かなかった。
私は、空いている方の手を、彼の手の上へ重ねた。
「……それでもいいのよ、ラビ」
ラビが、ゆっくり顔を上げる。