第13章 【第十二話】記録に残らない熱
火の粉がぱらぱらと地面へ散り、消えていく。荒れ狂っていた炎は、嘘みたいに静まり返った。
残ったのは、焼け焦げた匂いと、雨水の上へ立ち上る白い蒸気だけだった。
少し離れた場所では、トーマスが倒れた少年へ駆け寄り、その呼吸を確かめていた。
ラビの肩が、大きく上下している。呼吸が、噛み合っていない。
握り締めていた手が、震えていた。火判の反動だけではない。自分が何をしようとしたのか、今になって身体が追い付いたみたいだった。
「……ラビ」
そっと名を呼ぶ。
私は傷付いた右腕を庇いながら、ゆっくり彼の前へ膝をついた。
炎の中ではしがみ付けたのに、今は、頬へ伸ばす指先がためらった。
煤の付いた肌に指が届くと、ラビの肩がびくりと揺れた。
ゆっくりと、顔が上がる。
その翠の瞳は、さっきまでの怒りを引きずったまま、ひどく歪んでいた。
怒っているのではない。
怯えている。
あのラビが。
「……ティファ」
震える声で、名前を呼ばれる。
ラビの手が、私の指を握り締めた。
痛いほど、強く。
その額が、縋るように私の肩へ押し当てられた。
「……っ、記録するだけのオレじゃ……もう無理なんだよ……っ!」
焦げた匂い。雨に濡れた団服の冷たさ。それとは不釣り合いなほど熱い呼吸。
私は、動けなかった。
いつも一歩引いた場所から周りを眺めていた彼が、今は、何一つ隠せずにいる。
「……ラビ」
どう声を掛ければいいのか、分からなかった。
ラビが、ゆっくりと私の肩から額を離す。
私の手を、握ったまま。
「……歩けるか?」
ひどく掠れた声だった。
視線は、私の右腕へ落ちている。裂けた団服と、指先へ流れ落ちる赤い滴。それを見て、私の手を握る指が、小さく強張った。