第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「離して……!」
レイピアを呼ぼうとして、意識が揺らぐ。
今は、少年へ歌を繋ぐだけで精一杯だった。少しでも気を逸らせば、また輪郭が崩れる。
その一瞬を、AKUMAは見逃さなかった。
「その喉さえ残れば、それでよい。手足の一本くらい、なくとも困るまい」
触手が、ゆっくり右腕へ食い込んだ。
骨が軋む。
「っぁ……!」
鋭い痛みに、指先から感覚が消えていく。歌が、大きく震えた。
揺れる視界の向こうで、少年の輪郭が、また薄く揺らいだ。
ぶち、と。
皮膚が裂ける音がして、血が飛んだ。
「――ティファ!!」
空間を裂くような叫びだった。
逆さまの視界の端で、ラビが鉄槌を握り直すのが見えた。
柄が、軋む。
「触んな…………ティファに触んなァァッ!!」
鉄槌へ、爆発するように炎が走った。
「劫火灰燼 火判――!」
ラビが、鉄槌を石畳へ叩き付けた。
刻まれた判から炎が噴き上がり、巨大な蛇の形を成して、私を縛る触手へ喰らい付く。
黒い肉が焼け弾け、AKUMAの悲鳴が響いた。
残っていた雨水が白い蒸気を噴き上げ、錆びた遊具の影が真っ赤に揺れる。
焼き切られた触手ごと、私の身体が宙から落ちた。
濡れた石畳へ叩き付けられ、息が詰まる。右腕には、焦げた触手がまだ絡み付いたままだった。