第13章 【第十二話】記録に残らない熱
それでも、ラビは止まらなかった。
――私が、見えていない。
逃れようとするAKUMAの胴体へ、炎が正面から炸裂する。崩れかけたティーカップごと、黒い影が灼熱の中へ吹き飛ばされた。
「貴様……何を……!」
AKUMAの声さえ、ラビには届いていないようだった。
「返せ……ティファを……返せぇッ!!」
火判が、さらに膨れ上がる。
炎はAKUMAだけではなく、周囲の空間そのものを焼き裂く勢いで荒れ狂っていた。
歪んでいた景色が、赤い熱の中で不自然に軋む。観覧車の影が揺らぎ、メリーゴーランドの馬が、炎に照らされて歪んだ笑みを浮かべているように見えた。
その熱量は、明らかに尋常ではなかった。
ラビ自身の身体まで、炎の反動に呑み込まれかけている。槌を握る腕が、熱に灼かれていく。
「やめて、ラビ!」
右腕に絡んだままの触手を、左手で引き剥がす。裂かれた傷に擦れて、激痛が走った。膝が崩れかけ、血が団服の袖を伝って石畳へ落ちる。
視線の先で、AKUMAの黒い身体はすでに大きく崩れていた。歪んだ顔がひび割れ、胸元から白い光が溢れ出す。
甲高い断末魔と共に、黒い器が内側から弾け飛んだ。囚われていた魂の光が、細い粒となって雨上がりの空へ昇っていく。
メリーゴーランドの影の向こうで、少年の輪郭はまだ薄く揺れていた。それでも、歌が途切れるまでに戻せた分だけは、辛うじて崩れずに残っている。
AKUMAは、もう消えている。
敵を失った炎が、今度は錆びた遊具を呑み込み始めた。