第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「だから今度は、閉じた。死者が溜まった、この箱の中へ。十五年前、この地で死んだ者たちを、終われぬまま縫い止めた」
メリーゴーランドの奥で、ぼんやりと幾つもの影が揺れた。
輪郭の欠けた子供や母親、制服姿の係員が、薄い霧のように遊園地の各所へ立っている。誰も声を上げず、誰もこちらを見ない。
ただ、終われないまま、同じ場所へ留められている。
「……じゃあ、あの子は何だ」
ラビの声が、さらに硬くなった。
「あの子も、この場所を作るのに使ったのか」
「使った、か」
歪んだ顔が、愉しげに歪む。
「あの小さな生者は、材料ではない。この箱が形を成したあとで、放り込んだのだよ。――歌う娘を、ここへ呼び寄せるためにな」
喉の奥が、凍り付いた。
「終われぬ死者どもの中へ、生きた子供を一人放り込めばどうなるか。助けを求め、泣き、やがて存在を削られていく」
この子は、偶然ここへ迷い込んだのではない。
――私を、ここへ引き込むために。
歌が、震えた。指先が冷えていく。
「お前は、消えかけた生者を見捨てられぬ。喉を裂いてでも、歌う」
見透かされたようで、息が詰まった。
歌は止めない。
少年は、まだ生きている。
旋律の切れ目に、一言だけ落とした。
「……最低ね」
「だが、現にお前は来た。そして、歌った」
黒い触手が、濡れた石畳の上でゆらりと持ち上がる。
鉄槌を握るラビの手に、ぎり、と力が入った。
「……てめぇ。その子を餌にして、ティファをここまで引っ張り出したってことか」
「そうだ。連れが一人増えたところで、何も変わらぬ。邪魔なら、ここで壊せばよい」
ラビの肩が、僅かに揺れた。
踏み出しかけたラビの足が、私の前で止まった。