第13章 【第十二話】記録に残らない熱
私は小さく、旋律を紡いだ。
それまで何も返してこなかった遊園地が、私の歌だけを受け止めた。
白銀の音が、濡れた石畳の上を滑る。崩れた売店を抜け、色褪せた馬たちの間を通り、透けかけた少年の身体へ、そっと触れる。
少年の輪郭が、僅かに揺れた。頬に、ほんの少し色が戻る。
――届いてる。
そう思った時、遊園地全体が音もなく歪んだ。
観覧車の影が、不自然に伸びる。メリーゴーランドの馬たちが、一斉にこちらへ顔を向けたように見えた。足元の水溜まりへ映る景色が、現実より一瞬遅れて揺れる。
「ティファ、止めるな! 来るぞ!」
ラビの声が鋭く飛ぶ。
細長い人型の身体が、闇の中からぬるりと姿を現した。
白い仮面めいた頭部には、貼り付いたような歯列が浮かび、空虚な眼窩の奥だけが不気味に光っている。背後からは、細長い触手が幾本も濡れた地面を這い、黒い泥のように広がっていた。
球体ではない。固有の形を持ったAKUMA。
「レベル2か……」
ラビが鉄槌を振り上げ、私の前へ立った。
「……見つけたぞ」
歪んだ口元が、ゆっくりと開く。
「てめぇが、この場所をこうしたのか」
AKUMAの笑い声が、濁った金属音のように軋んだ。
「我は、ただ守っているだけだ。あの御方が縫い止めたものをな」
「……あの御方だと?」
AKUMAの顔が、こちらへ向いた。
「一度目は、広がりすぎた。土地も、人も、記録も。余計なものまで崩れ、望んだ形にはならなかった」
アンナの村の光景が、脳裏に蘇る。音の消えた村。存在そのものを失いかけた人々。
あれは、偶然ではなかった。