第13章 【第十二話】記録に残らない熱
三人で、遊園地へ向かう。
道の両脇には、色褪せた看板が倒れていた。雨に濡れた紙面には、笑顔の道化師が描かれている。大きく口を開けて笑っているはずなのに、剥がれ落ちた塗料のせいで、その顔は泣いているようにも見えた。
やがて、歪んだ鉄門の前へ辿り着く。
門の上には、錆で判別しにくくなった文字が並んでいた。かつては華やかな色を宿していたのだろう文字が、薄い灰色へ褪せている。
門は、僅かに開いていた。最初から、誰かを招き入れるかのように。
ラビが鉄槌へ手を掛ける。
「トーマスは後ろ。何か出たら、戦うより先に退路を探せ」
「は、はい」
「ティファ」
「ええ」
私は喉元へ指を添えた。
門を潜った瞬間。
どくん、と。
喉の奥が、強く脈打った。
「……っ」
身体の内側を掻き混ぜるような感覚に、思わず息を呑む。
ひどく歪んだ響きだった。
アンナの村で感じた、あの不完全な歌に似ている。
「ティファ?」
ラビの声が、鋭くなる。
私は喉元を押さえたまま、ゆっくり顔を上げた。
「……前の村と、似ている。でも、広がっていない。ここに……閉じ込められているみたい」
ラビの翠の瞳が、遊園地の奥へ向く。
止まった売店。錆びた柵。遠くで軋み続ける観覧車。どれもが、雨上がりの灰色へ沈んでいる。
「前と同じ現象が、形を変えて起きてるってことか」
「……たぶん」
言い切るには、まだ情報が足りない。けど、喉の奥は、ここにあるものを拒むように熱を持っていた。
――くすくす。
微かな笑い声が、遊園地の奥から聞こえた。
子供の声だった。
「今のは……」
トーマスが、震える声で呟く。
ラビが鉄槌を構えた。
「聞こえた。ティファ、下がれ」