第13章 【第十二話】記録に残らない熱
汽車を降りると、湿った冷気が肌へまとわりついた。
雨上がりの無人駅の屋根から、溜まった雫が一定の間隔で石床へ落ち続けている。
ぽたり、ぽたり。
静まり返った駅舎ではよく響くはずの音が、耳へ届く前に、どこかへ吸い込まれていく。
濡れた道の向こうで、灰色の霧に溶け込むように、観覧車の輪郭が浮かんでいる。
ぎぃ……。
汽車の窓越しには聞こえた気がしただけの音が、今度ははっきりと耳へ届いた。
「……行くさ」
ラビが、遊園地へ続く道へ足を踏み出す。私はその後を追った。
濡れた石道へ靴を下ろした瞬間、足音が、遅れて響いた。
一歩踏み出したあとに、ようやく後ろから自分の足音が追い掛けてくる。
私は思わず足を止める。
「……ラビ」
呼び掛けるより早く、彼の手が横へ伸びた。
私がそれ以上進むのを制するように、掌が目の前へ差し出される。
「分かってるさ」
ラビは足元の小石を拾い上げ、道の先へ軽く放った。
小石は濡れた地面に落ちて跳ね、転がっていく。その途中で、音だけがふつりと途切れた。
「……途中から、音が返ってこねぇ」
ラビの表情が険しくなる。
「距離も変だ。目で見えてる近さと、実際の位置が噛み合ってねぇ」
トーマスが、顔色を失いながら記録端末へ視線を落とした。
「測定値が……安定しません。園の入口まで二百メートルと表示された直後に、五百メートルへ変化しています」
「トーマスも、ティファも。下手に一人で動くなよ。先に行くなら、必ず声掛けろ」
振り返らずに告げられた言い方が、ひどく強く聞こえた。
「……分かっているわ」
答えると、ラビの握り締められていた拳が、ゆっくりと解かれた。