第2章 【第一話】雪に残る歌
……ここで止めたら、この子は出られない。
私は必死に声を繋いだ。白銀の光が強くなる。
AKUMAの身体へ、いくつもの亀裂が走った。歪んだ仮面が崩れ落ち、黒い身体が光の粒へ変わっていく。
少女の泣き声が、ふっと止んだ。
器が砕け、その奥から小さな光が浮かび上がる。あの日、母の中から浮かんだのと同じ光だった。
『ありがとう……』
今度は、はっきり聞こえた。
光が、空へ昇っていく。
歌が途切れた。力が抜けて雪に両手をつく。喉に触れると、まだ熱が残っていた。
……これで、よかったんだろうか。
「立て」
師匠の声が降ってくる。顔を上げることができない。
「私……」
「今のを忘れるな。中の声を聞け。必要なら、壊せ」
涙が雪へ落ちる。
「怖い……」
初めて、そう口にした。師匠は少しだけ黙った。
「怖くなくなる必要はねぇ」
顔を上げると、師匠はもう背を向けていた。
「怖ぇまま歌え」
背中が、少し遠くなる。
「痛みを忘れた奴から、化け物になる」
私は袖で涙を拭い、雪に手をついた。足はまだ震えている。胸の痛みも消えない。そのまま立ち上がり、師匠の背中を追った。