第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
――今は、聞くな。
これ以上、踏み込むのはやめようと思った。
でも、彼のように何事もなかった顔で話しかけることも、今はできそうになかった。
*
食事を終え、資料室へ戻る途中、回廊の先に赤い髪が見えた。足が、勝手に別の通路へ向きかける。
「お、ちょうどいいとこに二人揃ってるな」
振り返ると、書類の山を抱えたリーバー班長が立っていた。回廊の先で、ラビも足を止めている。
もう、引き返せなかった。
「悪いんだが、この資料を地下の保管庫まで運んでもらえないか。量が多くてな、二人なら一往復で済む」
ラビが、口を開きかける。
「――ごめんなさい、リーバー班長。この後、手合わせの約束をしていて」
ラビの返事を待たずに、そう答えていた。
「……その顔色で?」
ぽつりと落ちたのは、ラビの声だった。
思わず顔を向けかけて、やめた。
「あなたが気にすることじゃないわ」
言い終えてから、唇を噛んだ。
ラビの返事は、少し遅れた。
「……そっか」
「お、おう……無理はすんなよ。じゃあラビ、悪いけど一人で頼めるか」
「……いいさ。オレ一人で運べるって」
ラビは笑って、リーバー班長から書類の山を受け取った。
――ティファが気にすることじゃねぇ。
昨日、そう言われて、あんなに苦しかったのに。
取り消そうと口を開きかけた。けど、こちらを見ないまま書類を抱え直すラビに、声が出なかった。
「重っ……班長、これ何日分溜め込んでたんさ」
「……聞くな」
二人の足音が、回廊の向こうへ遠ざかっていく。
手合わせの約束なんて、どこにもなかった。
……こんな時まで意地を張るなんて、本当に可愛くない。