第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
料理を受け取り、アレンと共に空いている席へ向かう。
向かいへ座るなり、アレンは迷いなくサンドイッチへかぶりついた。
師匠のもとで暮らしていた頃も、食卓の料理を一番早く空にしていたのは、いつもアレンだった。
「……昔、師匠の分まで食べて怒られていたのを思い出したわ」
「あれは師匠が悪いんです。僕に食べるなって言わなかったでしょ」
「普通は言われなくても分かるものよ」
「分かりません」
私はまた笑ってしまう。
喧騒の向こうから、ラビの声が聞こえる。聞かないようにしているのに、聞こえてしまう。
アレンが、少し心配そうに私を覗き込んだ。
「でも、本当に大丈夫ですか? やっぱり、少し顔色が悪いです」
眉を寄せ、私の額へそっと手を伸ばす。熱を確かめるような、昔から変わらない仕草。
「熱は……なさそう」
「子供扱いしないで」
「ティファが心配なんです」
真っ直ぐ言われ、返す言葉に困る。
アレンは少しだけ目を伏せた。
「ティファは、そんなことないって言うんだろうけど……」
アレンは、フォークを持つ手を止めて続けた。
「ティファがいなかったら、僕はたぶん、今ここにいません」
私は息を止める。
「師匠のところに来たばかりの頃は、夜が怖かったんです。目を閉じると、マナのことばかり思い出して」
アレンは少しだけ笑った。どこか、寂しい笑みだった。
「そんな時、ティファの歌を聞くと、眠れたんだ。明日も起きていいと思えた」
……あの夜の歌が、そこまで届いていたなんて、知らなかった。