第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
「ティファ?」
名前を呼ばれて顔を上げると、目の前にトレーを持ったアレンが立っていた。
「どうしたんですか? さっきから列が進んでいるのに、全然動いていませんでしたよ」
言われて初めて、前の団員がもう料理を受け取って離れていることに気付いた。
「あ……ごめんなさい」
慌てて一歩前へ進むと、アレンが少し困ったように笑う。
「ティファ、昔から考え込み始めると、周りが見えなくなりますよね」
「……そんなことあったかしら」
「ありましたよ。師匠のところでも」
アレンは懐かしそうに目を細めた。
「夜遅くまで一人で考え込んで、僕が声を掛けても気付かないことが何度もあった」
「アレンだって、人のこと言えないでしょ」
思わず返すと、彼は一瞬口を噤み、それから少し気まずそうに笑った。
「……そうですね。僕も、人のことを言える立場じゃないけど」
その瞳の奥へ、一瞬だけ影が落ちた。
「でも」
アレンは、改めて私を見た。
「ティファが一人で抱え込む癖は、昔から知っています」
「……アレンには、敵わないわね」
「一緒に食べませんか?」
アレンが、手にしていたトレーを少し持ち上げる。山盛りのパスタにサンドイッチ、スープ、サラダ、さらに焼き菓子まで乗っていた。
「……相変わらず、すごい量ね」
「え? 普通ですよ?」
「どこが」
「これでも控えめにしたんです」
真顔で言われ、思わず小さく笑ってしまった。
「十分多いわ」
「ティファが少なすぎるんですよ」