• 小
  • 中
  • 大
  • テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第12章 【第十一話】触れてはいけない距離



ラビが、初めて真っ直ぐ私を見る。

翠の瞳の奥で、何かが揺れていた。触れてはいけないほど切迫した、何か。


「……ティファ」

近い距離にある彼の表情が、あまりにも苦しそうで、何を言えばいいのか分からなくなる。

ラビは、逃げるように私の手を離した。触れられていた場所へ、冷たい空気が戻ってくる。


「……悪ぃ」

目を伏せたまま、短く呟く。

「今のは、忘れてくれ」


「忘れられるわけないでしょ」

思わず答えると、ラビは困ったように笑った。

ひどく、歪んだ笑みだった。


「じゃあ……見なかったことにしてくれればいいさ」

「どうして、そこまでして隠そうとするの?」


ラビは答えず、視線を逸らした。

「オレは、記録する側に戻らなきゃなんねぇんだ。……それ以上は、今は聞くな」


離れなければならない理由は、分かった。
でも、離れたところで彼が楽になれるとは、思えなかった。

私が近くにいると、彼は苦しくなる。それが、嫌でも伝わってきた。


「……分かった」

ようやくそう答えると、ラビは一瞬言葉に詰まったようだった。

安堵したようにも、傷付いたようにも見えた。


「今日はもう戻れ、ティファ。傷、また開くぞ」

いつもの軽さへ戻そうとしているのが、分かってしまった。


「……ラビも、休んで」

「オレは丈夫だから平気さ」

彼は片手を上げ、今度こそ背を向けた。


遠ざかっていく足音が、冷えた回廊へ溶けていく。



私はその場に立ち尽くしたまま、掴まれていた手首へそっと触れた。

そこにはまだ、消えてくれない熱が残っていた。


――見なかったことにしてくれればいいさ。


あんな苦しそうな目を見て、そんなことできるはずがなかった。

/ 382ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp