第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
「私のことを、言っているの?」
ラビの翠の瞳が、揺れた。
「ラビ」
もう一歩、距離を詰める。
「病院で私を助けてくれた時も、帰りの汽車の中でも……あなたは、何かを隠しているように見えたわ」
「……気のせいさ」
「気のせいなら、どうして今もそんな顔をしているの」
ラビの指先が、記録帳の端へ食い込んだ。
私は思わず彼へ手を伸ばす。その指先が袖へ触れる寸前、ラビの手が反射的に私の手首を掴んだ。
「……っ」
息が止まる。
ただ掴まれただけなのに、手首から伝わる熱に、身体が動かなくなった。
翠の瞳が、自分の手と私の手首を見比べる。掴んだ指先が、僅かに震えていた。
「……ラビ?」
呼び掛けると、彼の喉が小さく動いた。
「……こうなるから、嫌なんさ」
「え?」
「近くにいると、余計なことまで考えちまう」
掠れた声に、私は息を呑む。
「余計なこと……?」
「知らなくていい」
言葉では突き放しながら、手首を掴む指は緩まない。病室で私を引き寄せた時と、同じ強さだった。
「でも、あなたが苦しそうにしているのに、何も知らないままでは――」
「だから、知らなくていいんだって」
ラビは俯いたまま、私の言葉を遮った。
「オレが勝手に迷ってるだけさ。ティファが気にすることじゃねぇ」
「……そんな言い方をされたら、余計に気になるわ」
「気にすんな」
「無理よ」
思わず返した声が、思ったよりも強く響いた。