第2章 【第一話】雪に残る歌
「戦え」
師匠の声が響いた。私は振り返る。
「え?」
「ニルヴァーナを使え」
師匠は銃へ手を伸ばそうともしていない。
……本気で私一人に戦わせるつもりなんだ。
「無理」
喉が震える。
「私、まだ」
「無理なら死ぬだけだ」
AKUMAがぎちりと身体を鳴らし、また笑った。その笑い声が、あの日の記憶と重なる。
母の血。黒い星。灰へ崩れた指。何もできずに泣いていた自分。
息が苦しい。
その時、AKUMAの笑い声に混じってか細い声が聞こえた。
『たすけて……』
息を呑んだ。幼い女の子が、あの怪物の中で泣いている。
器を壊さなければ、この子は出られない。師匠に教わったことを思い出し、私は喉の奥へ意識を向けた。
『いたい……こわい……帰りたい……』
熱が集まりかけたところで、息が止まった。泣き声のする方へ光を放とうとすると、あの子まで一緒に砕けてしまいそうだった。
「壊せ。ニルヴァーナで」
分かっているのに、声が出てこない。
気付いた時には、AKUMAの腕が振り上げられていた。
――避けられない。