第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
教団本部の石門が、重々しい音を立てて閉ざされた。
その音を背中で聞いて、ようやく襲撃の硝煙と、長い帰路で染み込んだ雪混じりの冷気から解放されたのだと実感する。
鼻を掠めるのは、慣れ親しんだ石造りの建物の匂いと、遠くから微かに漂う消毒液の匂い。冷え切った身体へ、石炭ストーブの熱が染み込んでくる。
張り詰めていた神経が、ほんの少しだけ緩んだ。
リナリーは念のため検査を受けることになり、コムイさんとブックマンに付き添われて医務室へ向かっていく。その細い背中が廊下の奥へ消えるまで見送ってから、私は小さく息を吐いた。
「ティファ」
すぐ隣から呼ばれて振り向くと、アレンが心配そうにこちらを見ていた。
「顔色が悪いです。汽車の中でも、ほとんど眠ってなかったでしょ?」
言われて、思わず頬へ手をやった。
帰りの汽車では、目を閉じても眠れなかった。隣の沈黙が、ずっと気になっていたから。
「平気よ。これくらいなら――」
「駄目です」
アレンの手が、私の腕へそっと添えられた。その指先は、微かに震えていた。
「ティファは、すぐそうやって言うから……」
巻き戻しの街で、彼もまた大きく傷付いたばかりなのに。自分の痛みよりこちらを案じる顔は、師匠のもとで過ごしていた頃から変わらない。
私は彼を安心させるように微笑み、添えられた手へ自分の指を重ねる。
「分かったわ。今日はちゃんと休むから、そんな顔をしないで」
「……約束ですよ」
「ええ、約束」
そう答えながら、アレンの白い髪へ残っていた雪の粒をそっと払った。触れた髪は、外気を含んで冷たい。