第11章 【第十話】巻き戻らない時間
「……リナリー、少しだけ」
小さな声でそう告げると、彼はそっとリナリーを外へ連れ出していった。
私は窓越しに、白く煙るプラットホームへ立つ二人の背中を見つめた。
冷たい夜気の中、何かを訴えるように言葉を紡ぐアレンに、リナリーもまた、感情を抑え切れないように声を返している。
声までは聞こえないのに、二人がぶつかり合っているのは分かった。
ふっと、リナリーの肩から力が抜ける。
俯いたまま、彼女はアレンの団服の袖をぎゅっと掴み、もう片方の手で涙を拭った。
私は、ようやく小さく息を吐いた。
――ちゃんと、通じ合えたんだ。
張り詰めていたものが、少しだけ軽くなった気がした。
ふと、隣へ視線を向ける。
ラビは窓枠へ肘をついたまま、ホームに立つ二人を見ていた。
その横顔には、いつもの薄い笑みが浮かんでいる。
病室で、私を強く引き寄せた時の熱も。私が無事だと確かめるまで離れなかった、あの指先の震えも。
今は、綺麗に隠されていた。
――ラビ。
小さく呼び掛けかけて、私は口を閉ざした。
声を掛ければ、彼はきっと笑う。あの震えまで、笑顔の下へしまい込んでしまう。
それが、嫌だった。
窓の向こうでは、リナリーの指が、まだアレンの袖を掴んだままだった。
その姿が、なぜか少しだけ眩しく見えた。
汽笛が鳴り、二人が汽車へ戻ってくる。
向かいの席に座ったリナリーの肩は、さっきより少しだけ、アレンの方へ寄っていた。
隣のラビは、窓の外を見たままだった。
汽車は重たい蒸気を吐きながら、夜の雪原を走り続けた。