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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第9章 【第八話】記録者の選択



「情は記録を曇らせる。まして、あれは中央庁さえ注視する存在だ」


沈黙。

「お前が失うことを恐れた時点で、それはもう観察ではない」


胸の奥へ、冷たいものが落ちた。



雪原でのラビの声が蘇る。

――お前を傷つかせるわけにはいかねぇんだよ。


あの声の奥には、確かに何かがあった。
それが今、触れてはいけない形を取って、目の前へ突き付けられている。


張り詰めた沈黙の中。
やがて、ラビの声が落ちた。


「……分かってるさ」

いつもの明るさなど、どこにもなかった。

「分かってんだよ、じじい……」

握り締められた拳が、月光の中で白く浮かぶ。


その手は。
雪原で、大槌を握っていた手だった。

私が隣へ並び。
ほんの僅かに指を重ねた手。


――あなたが私を守るなら、私もあなたを守る。


そう伝えた時。
僅かに強張った指先。


「ならば忘れるな」

ブックマンの声は、変わらず静かだった。

「お前が残すべきは、あの娘の記録であって、お前自身の願いではない」


ラビの肩が、ほんの僅かに揺れた。


願い。

その一言が、胸の奥へ深く落ちた。



あの日。
私が、

――そういう不器用なところ……嫌いじゃないわ。

と告げた時。

彼は言った。

――オレに言うなよ。


あの言葉が、今になって別の意味を持つ。

私には分からなかっただけで。
あの時のラビは。

何かを受け取ってしまうことを、恐れていたのだろうか。

けれど。
彼は何も答えなかった。

ブックマンも、それ以上は言わない。


しばらくラビを見つめたあと、手にしていた古びた記録帳を閉じる。

乾いた紙の音が、静寂へ重く落ちた。

その音を聞いた瞬間。
それ以上、その場に留まっていられなかった。


私は気付かれないよう、そっと踵を返す。

足音を殺して歩いているはずなのに、胸の鼓動だけがやけに大きく聞こえる。

喉の奥が、ひどく詰まった。
声を出せば、何かが零れてしまいそうだった。


私はただ、書庫の出口へ向かった。

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