• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第9章 【第八話】記録者の選択


それから、数日が過ぎた。

ラビとは、相変わらず顔を合わせる。
食堂で、廊下で。

彼は変わらず笑っている。

けれど、あの夜、窓辺で一人夜空を見上げていた横顔を、私はもう忘れられなかった。

聞きたいことがあるのに、聞けないまま。


その夜も、眠りはなかなか訪れなかった。

私は眠ることを諦め、借りていた本を手に書庫へ向かった。



古い紙とインクの匂い。
高い書架。

誰かの声がなくても、過ぎていった時間だけが静かに残っている場所。

以前なら、その静けさに少しだけ救われた。


私は本を胸元へ抱え、灯りの落ちた棚の間を進む。

その時だった。
石柱の向こうから、低い声が聞こえた。


「……お前は四十九番目だ」

足が止まる。
聞き覚えのある、掠れた老人の声。

「ひとつの歴史に肩入れするために、ここにおるのではない」


私は反射的に、本棚の影へ身を寄せた。

棚の隙間から差し込む月明かりが、向こう側に立つ二人を青白く照らしている。


背を向けて立つ、ラビ。
その正面に立つ、ブックマン。

ラビは身じろぎひとつせず、ただ黙ってその言葉を受け止めていた。


「セトラの娘へ向けた情は、捨てろ」

ブックマンの低い声が、書庫の静寂へ沈んだ。


喉の奥が、僅かに強張る。
私のことを言っている。


「前にも言ったはずだ」

ブックマンは、ラビから視線を逸らさない。

「記録者は観察する。案じるのではない、と」


ラビの肩が、ほんの僅かに強張る。


「だが今のお前は、案じるだけでは済んでおらん」

ブックマンの声は静かだった。
だからこそ、余計に重い。

「既に、それを越え始めている」



ラビは何も答えなかった。

身体の横へ下ろされていた手が、ゆっくりと拳を作っていく。
/ 1033ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp