第11章 【第十話】巻き戻らない時間
「コムイさん!」
「兄さんに……触らないで!」
凛とした声が、病室へ響き渡った。
寝台の上で、黒髪が舞う。白いシーツを蹴り上げるように、リナリーの身体が宙へ躍り出た。
淡い光を纏ったダークブーツが、レベル2の鉤爪を正面から弾く。そのまま、鋭い蹴撃が黒い顔面へ叩き込まれた。
轟音。
AKUMAの身体が壁際へ吹き飛び、石床へ重く叩きつけられる。
「リナリー……!」
思わず、彼女の名を呼んだ。
着地したリナリーの身体が、ほんの僅かに揺らぐ。顔色はまだ白く、呼吸も万全とは言えない。
それでも彼女は、兄を庇うようにコムイさんの前へ立ち、それから私の隣へ並んだ。
「……お待たせ、ティファ。もう大丈夫」
「よかった……目が覚めたのね」
「うん」
リナリーは、寝台から起き上がったばかりとは思えないほど、真っ直ぐに前を見据える。
「兄さんを、守らなくちゃ」
その瞳に宿る光に、冷えかけていた指先へ熱が戻った。
私は短く頷き、二振りのレイピアを構え直す。
「無理はしないで。背中は私が守るわ」
「ありがとう。ティファもね」
二人並んで、迫るAKUMAへ向き直る。
増援は途切れなかった。砕けた外壁からも、病室へ続く廊下からも、黒い影が次々と姿を現す。
弾丸が飛び交い、床へ瓦礫が散る。立ち込める硝煙と粉塵で、敵の輪郭さえ見えにくくなっていった。
リナリーの蹴りが一体を弾き飛ばし、私はその脇を抜けて、核へレイピアを突き込む。
白銀の光が弾けた直後、別の弾丸が寝台の方へ放たれた。