第11章 【第十話】巻き戻らない時間
「ティファ嬢、左だ!」
ブックマンの声と同時に、鋭い針が私の横を抜け、崩れた壁の影から飛び込んできたAKUMAの動きを一瞬だけ止めた。
私は床を蹴る。
右のレイピアで向けられた砲身を逸らし、左の刃を球体の胴へ深く突き込んだ。
甲高い悲鳴。
刃が触れた箇所から白い光が溢れ、黒い器が弾ける。光の粒が、朝霧の中へ昇っていった。
解放された魂を、見届けている余裕はなかった。
壁の外から、さらに複数のAKUMAが滑り込んでくる。一体を破壊しても、砕けた外壁の向こうには、まだ黒い影が揺れていた。
「数が……多い……!」
息を吐くたび、喉の奥が熱を増す。任務帰りの身体へ、イノセンスの負荷が重く沈んでくる。
けれど、背後にはリナリーとコムイさんがいる。
一歩も、退くわけにはいかなかった。
「なぜ、こんな場所に……!」
寝台の傍で、コムイさんが眠るリナリーを庇うように立っている。
「狙いはまだ分からない! 負傷したエクソシストか、君か、それとも別の目的か……!」
言い終わるより早く、瓦礫を踏み砕いて、異形の影が飛び込んできた。
球体ではない。他のAKUMAより一回り大きく、歪な腕の先に、鋭い鉤爪を持っている。
「レベル2か……!」
ブックマンの声が、鋭く飛んだ。
黒い腕が、寝台へ向かって振り下ろされる。
「っ……!」
私は目前へ突っ込んできたAKUMAを交差させた刃で押し留めたまま、動けない。ブックマンの天針も、別方向から迫る弾丸を弾くために塞がれている。