第9章 【第八話】記録者の選択
任務から戻って、数日が過ぎていた。
雪原で負った左腕の傷は、もう大したものではない。
医務室で包帯を巻き直すたび、傷口は少しずつ塞がっていると言われた。喉の調子も戻り、ニルヴァーナの発動に支障が出るような異常もない。
身体は、確かに回復していた。
けれど。
任務から戻った日以来、以前より頻繁にラビの姿を見かけるようになった。
医務室で包帯を替える時も。
食堂で食事を取る時も。
科学班へ報告に向かう時でさえ。
気付けば、彼は何でもない顔で私の傍にいる。
本人は、笑って言う。
――美人の護衛さ。
――傷が治るまで、特別待遇ってことで。
いつもの軽口。
いつもの、人懐こい笑顔。
今までと何も変わっていないみたいに。
けれど。
朝の食堂で声を出せば、喉の調子を確かめるようにこちらを見る。
廊下を歩けば、左腕を庇っていないか視線が落ちる。
見張られている、とは少し違う。
私はもう、その視線を冷たいとは思わなかった。