第11章 【第十話】巻き戻らない時間
窓から差し込む光の中で、ブックマンの視線が鋭さを増す。
「その可能性は高い」
並べ直した鍼を布ごと巻き、懐へしまった。
「伯爵にとって、死者の魂はAKUMAの材料だ。お主の歌は、それを先に奪う。ノアが表へ出てきた以上、向こうが嗅ぎつけるのも時間の問題だろう」
戦う覚悟なら、とうに決めていた。
でも、狙われるのが私なら――
眠るリナリーの顔へ、視線が落ちる。
私の傍にいるだけで、誰かを巻き込むかもしれない。
コムイさんが、申し訳なさそうに眉を寄せた。
「怖がらせたいわけじゃないんだ。ただ、これからは単独での行動を極力避けてほしい」
「……分かりました」
素直に怖い、と思った。
喉元に添えていた手を、私は自分で下ろした。
「私の力で救える魂があるなら、逃げるつもりはありません。でも……一人で背負えるとも、もう思っていません」
雪原で交わした言葉が、蘇る。
――一人で背負わないで。二人で、生きて帰りましょう。
あの時ラビへ伝えた言葉は、きっと、私自身へ向けるべき言葉でもあった。
コムイさんの瞳が僅かに揺れ、柔らかく細められる。
「……そう言ってくれるなら、少し安心したよ」
ぞわり、と。
肌の上を、冷たい何かが這った。
喉の奥で、ニルヴァーナが鋭く震える。先ほどまで残っていた熱とは違う、敵意に反応するような、刺すような共鳴。
「……っ」
息を呑んだのと、ブックマンが鋭く顔を上げたのは、ほとんど同時だった。
「伏せろ!」
轟音と共に、病室の外壁が爆ぜた。