第11章 【第十話】巻き戻らない時間
私は閉じた扉を見つめたまま、膝の上で指を握り締めた。
ラビは、アレンを気遣っていた。さっき病室で、初めて会ったばかりの二人の間に流れていた緊張が嘘みたいに。
誰かが苦しんでいる時には、何でもない顔で傍へ立てる人なのだ。
だからこそ、自分の苦しさだけは、誰にも見せようとしないのかもしれない。
「……ティファちゃん」
コムイさんに呼ばれて、振り返る。
彼は、先ほどまでアレンを診ていた時とは違う、ひどく真剣な表情で私を見ていた。
「座ったままでいい。君にも、話しておかなければならないことがある」
私は無言で背筋を伸ばした。
「……何でしょうか」
「今回、ノアと呼ばれる存在が確認されたことで、状況が少し変わった」
コムイさんは一度、眠るリナリーへ視線を向けてから、静かに続けた。
「君の歌――死者の魂を送る力についてだ」
無意識に、指先が喉元へ触れた。任務で歌を使ったあとの微かな熱が、まだそこに残っている。
「君自身が一番分かっているだろうけど……その歌は、魂がAKUMAにされる前に、天へ還すことができる。僕たちが、手遅れになってからしか救えないものを」
一つ一つの言葉が、重く落ちてくる。
「……はい」
喉元へ添えた指先が、僅かに冷えた。
分かっていたことのはずだった。改めて室長の口から告げられると、自分の力が持つ意味が、今までとはまるで違う重さで迫ってきた。
「もし、千年伯爵側が君の能力を正確に知れば……放置はしないだろう」
「……私が、狙われる可能性があるということですか」
問い掛ける声は、思っていたよりも落ち着いていた。