第8章 【第七話】肩を並べる約束
「それ禁止」
「でも」
「でもじゃねぇって」
彼は軽く息を吐くと、傷のない方の手で私の左腕を指差した。
先ほど、AKUMAの爪が掠めた場所。
裂けた団服の袖の下では、細い傷から赤が滲んでいる。
「……ほら、お前だって掠ってんじゃん。それ、オレのせいにされたら、こっちは何回謝りゃいいんさ」
「……それは、違うわ」
「だろ?」
ラビは静かに笑った。
「おあいこさ。……つうか、そういうことにしとけって」
肩を竦める。
「二人で戦って、二人で戻る。そう決めたんだろ。なら、傷の勘定なんざ、いちいちすんなよ」
その声が、吹雪よりも深く胸へ入ってくる。
私は左腕の傷へ一度視線を落とし、ゆっくり頷いた。
「……ええ」
雪の向こうから、村人たちの声が聞こえた。
教会の扉が開き、ミヒャエルがこちらへ駆けてくる。
怯えながらも、生きている人々の声。
泣きながら家族の名を呼ぶ声。
アンナの村には、もう残らなかった音。
今度は、守れた。
全てではなくても。
少なくとも、今ここで震えている人々は、生きて帰れる。
喉の奥が、僅かに震えた。
「……間に合ったのね」
呟くと、隣でラビが私を見た。
「ティファ」
「大丈夫よ」
自分でも驚くほど、声は静かだった。
「嬉しいの。今度は……間に合ったから」
ラビは何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を細める。
その翠の瞳に浮かんでいたのは、観察するための冷たさではなかった。
ほんの僅かな安堵と。
私の言葉を、そのまま受け止めようとする静かな色だった。