第10章 【第九話】空白の再会
扉へ向かう途中、ラビの横を通り過ぎる。彼はもう壁際へ寄りかかっていた。
「……ラビ」
小さく呼ぶ。
「ん?」
「あなたも、無理はしないで」
言えるのは、それだけだった。
ラビはいつもの調子で片手を上げる。
「誰に言ってんのさ。オレは元気いっぱいだっての」
軽い笑顔。
それが仮面だということを、私はもう知っている。
「……そう」
私は病室を後にした。
消毒液の匂いと、冬の隙間風が混ざり合う長い廊下。数歩進んだところで、背後からアレンの声が聞こえた。
「……コムイさん。どうして、室長であるあなたが……わざわざこの街まで来たんですか?」
足が、僅かに止まる。
短い沈黙のあと、答えたのはラビだった。
「……ノアが出たからさ、アレン」
「千年伯爵に連なる、ノアの一族。お前が今回の任務で接触したそいつのことを、教団は一刻も早く把握しなきゃならねぇ」
――ノア。
その名を、私はその時初めて耳にした。
アレンとリナリーを、ここまで傷付けた存在。室長であるコムイさんが、直接足を運ばなければならないほどの敵。
病院の外では、何事もなかったかのように朝の鐘が鳴っている。
その穏やかな音が、かえって不気味だった。
気付けば、喉元へ手を添えていた。
さっきまで熱を帯びていた喉が、指の下でひどく冷たかった。