第2章 【第一話】雪に残る歌
「どうして」
耐えきれず、問いかけた夜があった。
「どうして私がこんなことしなきゃいけないの」
師匠は焚き火の向こうで煙草を咥えたまま、しばらく黙っていた。炎が揺れ、その横顔を赤く照らす。
「お前がセトラだからだ」
母の魂。小さな鳥の光。二つが、胸の中で重なる。
「じゃあ、もし私が歌わなかったら」
師匠は煙を吐いた。
「伯爵に利用されてた可能性はある」
背筋が冷たくなる。
「お母さんも?」
「ああ」
炎が揺れた。
「だが、お前が先に送った。だから、もう誰にも呼び戻せねぇ」
母の灰。最後に光となって昇っていった魂。
……それだけは、守れたんだ。
「お母さん」
涙が一筋だけ頬を伝う。
師匠が煙草の灰を落とし、立ち上がる。
「泣くのは勝手だが、明日も訓練はやるぞ」
私は涙を拭いながら、小さく頷いた。
怖さが消えたわけではない。歌うたびに母の最期を思い出す。
それでも、この歌が母を守ったのなら。この力で誰かを同じ苦しみから解放できるのなら。
もう、ただ怯えているだけではいたくなかった。