第2章 【第一話】雪に残る歌
夜明け前に叩き起こされ、最初に覚えさせられたのは呼吸だった。
「浅い。もう一度」
私は息を吸う。
「違ぇ」
「でも」
「言い訳すんな。喉だけで歌うな。腹から支えろ」
何度も、何度も、息を吸っては吐く。最初に鍛えられたのは、魂へ触れるための歌だった。
そこに残るかすかな気配へ、そっと意識を寄せていく。怯えさせないように、引き留めないように、行くべき場所へ向かえるように歌う。戦う時は喉の奥で息づく異物に意識を向け、そこにある力を引き出そうとした。
「発動させろ」
師匠の声が飛ぶ。
私は息を吸い、喉の奥へ意識を集中させる。
――ニルヴァーナ。
白銀の光がわずかに揺らめく。
「弱ぇ」
「だって」
「AKUMAが待ってくれると思うな。もう一度だ」
光を散らさず、一つの方向へ集める。祈りではなく、刃にする。柔らかく歌おうとすれば白銀の力が弱くなる。力を込めれば今度は歌そのものが乱れる。
「混ぜるな」
師匠の声が飛ぶ。
「でも、同じところから」
「だから厄介なんだろうが。違いを覚えろ」
少しでも感情に呑まれれば光は制御を離れ、私自身の喉を焼いた。声が枯れても訓練は終わらない。血の味がして、もう歌えないと膝をついた時、師匠は水の入った容器を投げて寄越した。
「飲め」
「もう、無理」
「休んだらもう一度だ」