第8章 【第七話】肩を並べる約束
傷ついた肩で、なお私の前に立ち続けている。
心臓が、強く打った。
ラビの目に、いつもの乾いた静けさはなかった。
記録者として私を見定める冷たさも、軽口で距離を測る余裕も。
ただ、どうしようもなく焦ったような熱だけがあった。
私は、何も言えなかった。
雪が、二人の間を激しく吹き抜ける。
私はゆっくりと息を吐き、それから首を横へ振った。
「……それは違うわ、ラビ」
視線を逸らさず、彼の瞳を真っ直ぐ見据える。
ラビの肩口から、赤い血が雪の上へ落ちる。
私はその色へ視線を落とし、胸を締め付けられる痛みを、そのまま声へ乗せた。
「あなたが私の前へ立ち続けて、そのせいで傷つくのを見ているだけなんて、私は嫌よ」
「ティファ……」
「私は、あなたの後ろに隠れたいんじゃない」
一歩、彼の隣へ並ぶ。
二振りのレイピアを構え直す。
「隣で戦いたいの」
ラビが、言葉を失ったように私を見た。
私は片方の手を伸ばし、大槌の柄を握る彼の手へほんの僅かに指を重ねる。
冷たい手袋越しに、彼の指先が強張るのが分かった。
「あなたが私を守るなら、私もあなたを守る」
吹雪の向こうで、AKUMAの笑い声が歪んで響く。
「一人で背負わないで。二人で、生きて帰りましょう」
数秒。
ラビは何も言わなかった。
露わになった翠の瞳が、私を真っ直ぐ見ている。
その奥で揺れていた熱が、やがて静かに沈んでいく。
消えたのではない。
形を変えたのだと思った。
彼は深く息を吐き、困ったように笑った。