第10章 【第九話】空白の再会
握られた手に、ほんの少しだけ力が込められる。
「……会いたかったんです。ずっと」
その言葉を口にした途端、アレンの瞳が小さく揺れた。
言いすぎたと気付いたように、彼はすぐ視線を伏せる。
「……すみません。怪我をすると、少し弱気になりますね」
胸の奥が、静かに痛んだ。
クロス元帥の下で過ごした、あの過酷な修行時代。誰も信じられず、触れれば壊れてしまいそうだった少年。
夜に魘され、眠れずにいた彼の傍で、私は何度も小さく歌った。
何かを救えたなんて、思ってはいない。ただ、彼が一人で暗闇へ沈んでしまわないように。
私は、握られた手へ視線を戻した。
「……アレン、もう大丈夫よ」
彼の手を包んだまま、そっと身を寄せる。
「私はここにいる」
空いている方の手で熱を帯びた額へ触れ、白銀の髪を避けるように、ゆっくりと撫でた。
「だから今は、何も考えなくていいわ。あなたが眠れるまで、こうしているから」
アレンの瞳が、僅かに潤んだ。何か言いたげに唇が動いたけれど、結局それ以上は言わず、彼は私の手を握ったまま、小さく息を吐いた。
「……もう少しだけ……傍にいてくれますか」
「ええ」
迷う理由などなかった。
「もちろんよ」
アレンの張り詰めていた表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
その安堵を見た途端、喉の奥へ細い痛みが走る。
私は悟られないよう、浅く息を整えた。夜通しの移動で、任務後の疲労が思っていた以上に残っているらしい。
今この手を離す気には、なれなかった。
会えなかった時間の分まで、彼は私の手を強く握っている。