第8章 【第七話】肩を並べる約束
side:ティファ
アンナを連れ帰った任務から、十日ほどが過ぎていた。
喉を焼くようだった痛みは、もうほとんど残っていない。医務室でも、ニルヴァーナの発動に支障はないと判断された。
その間、何か特別なことがあったわけではない。
ただ。
以前より少しだけ、ラビの視線を近くに感じるようになった。
朝の食堂で声を出せば、「まだ少し掠れてるな」と言われる。
廊下ですれ違えば、何でもない顔でこちらの歩調を確かめられる。
問いかければ、いつも同じように笑う。
――偶然さ。
けれど、その偶然が重なるたび。
以前なら気になっていたはずの、彼の観察するような視線さえ。
私は少しずつ、冷たいとは思わなくなっていた。
それでも、私の中から消えないものはあった。
白い寝台の上で、何も知らない目をこちらへ向けた少女の姿。
――おかあさんって、だれ?
あの声だけは、今も胸の奥へ冷たく残っている。
救えた命がある。
それでも、取り戻せなかったものもある。
その事実を抱えたまま、私は室長室へ向かった。