第9章 【第八話】記録者の選択
食堂でトレイを持って席へ着くと、隣にリナリーが座った。
彼女は私の顔を見るなり、心配そうに眉を寄せる。
「ティファ、顔色が悪いわ」
温かなハーブティーのカップが、そっと私の前へ置かれた。
「……ラビと、何かあったの?」
昨夜、書庫で聞いてしまったことを、彼女へ話すことはできなかった。
……声にしてしまえば、何かが本当に壊れてしまいそうで。
「……何でもないの」
そう答えて微笑んだつもりが、上手く笑えていないのは、自分でも分かった。
リナリーはそれ以上問い詰めず、ただ隣にいてくれた。
窓の外では、灰色の空から細かな雪が降り始めていた。
――喉がきちんと戻ったら、聞かせるわ。
あの日交わした約束を、私はまだ果たせていない。
今の彼に差し出せば、あの綺麗な笑顔のまま、受け取られてしまう気がした。
冷えかけたハーブティーの水面に、窓の外の雪が静かに映り込んでいた。