第9章 【第八話】記録者の選択
それから、数日が過ぎた。
ラビとは、食堂でも廊下でも、相変わらず顔を合わせる。彼は変わらず笑っていた。
あの夜の横顔が浮かぶたび、聞きたいことは口に出す手前で止まった。
その夜も眠れず、私は借りていた本を手に書庫へ向かった。
古い紙とインクの匂いに、少しだけ肩の力が抜けた。
灯りの落ちた棚の間を進んでいると、石柱の向こうから声が聞こえた。
「……お前は四十九番目だ」
足が止まる。
聞き覚えのある、掠れた老人の声。
「ひとつの歴史に肩入れするために、ここにおるのではない」
私は反射的に、本棚の陰へ身を寄せた。
棚の隙間から差し込む月明かりが、向こう側に立つ二人を青白く照らしている。こちらへ背を向けたラビと、その正面に立つブックマン。
ラビは身じろぎひとつせず、黙ってその言葉を受け止めていた。
「セトラの娘へ向けた情は、捨てろ」
……私のことを言っている。
「前にも言ったはずだ。記録者は観察する。案じるのではない、と」
ラビの肩が、ほんの僅かに強張る。
「だが今のお前は、案じるだけでは済んでおらん。既に、それを越え始めている」
身体の横へ下ろされていたラビの手が、ゆっくりと拳を作っていく。