• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第8章 【第七話】肩を並べる約束


side:ラビ


記録することと、覚えていること。

その違いを問われたのは、あの夜の書庫だった。


――ラビは、しないの?

古い時計の振り子の音の向こうで、ティファはそう聞いた。


責めるでも、探るでもなく。ただ、分からないから聞く、という顔で。


オレは答えた。

記録は必要だから残す。覚えているのは、もっと面倒だ、と。


間違っちゃいねぇ。

いくつもの名前を名乗り、いくつもの役割を演じて、それぞれの人生を記録してきた。その全部を抱えていたら、とっくに潰れてる。

名前も、感情も、その都度置いてきた。
それがブックマンの後継ってやつだ。

嫌だと思ったことは、なかった。


誰の側にも立たないからこそ、見えるものがある。
零れ落ちていく歴史を、誰か一人くらいは残さなきゃならない。

その役目を、オレが引き受ける。

そこに意味があることを、疑ったことはなかった。


なのに、あの夜から。

妙な引っかかりが、消えねぇ。




オレにとって、人間は記録の対象だった。


戦場で死ぬ者も、生き延びる者も。裏切る者も、誰かへ縋る者も。

そのどれも、感情を混ぜずに記録に留めてきた。


けれど、ティファは違う。

記録から零れ落ちるものを、わざわざ拾う。


台帳から消えた村人の名を。
顔を失った肖像画を。

誰も覚えていない、母親が娘へ伸ばした手を。


残すべきものだけ残して、あとは切り離す。

そうしなければ次へ進めないとオレが言った時、ティファは静かに首を横へ振った。


――それでも、私は覚えていたいわ。


損得じゃねぇ。
役に立つからでもねぇ。


ただ、覚えていたいから覚える。

そんなことを、あんなに真っ直ぐ言う人間を、オレは初めて見た。

/ 1033ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp