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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第9章 【第八話】記録者の選択



「でも、この間の雪原で……あなた、すごく不器用な顔をしていたわ」

「……忘れてくれよ、それは」

「忘れないわ」

私は静かに笑った。


「ラビって、もっと器用に生きる人だと思ってた」

からかうように言いながら、指先が少しだけ冷たくなる。


こういうことを口にするのは、慣れていない。

ただ、彼が私のために不器用になってくれたのなら、私も一度くらいは、ちゃんと言葉にしたかった。


「でも、そういう不器用なところ……嫌いじゃないわ」

言い終えて、少しだけ息を止める。

初めて、誰かに向かってそう口にした。


ラビは、林檎とナイフを持ったまま動かなかった。

口元が笑みの形を作りかけて、途中で止まる。


「……そういうの」

ラビの視線が、手元の林檎へ落ちた。

「オレに言うなよ」


「え……?」

「なんでもねぇさ」

林檎が、皿へ戻される。その横顔から、先ほどまでの温度が静かに引いていった。


「ラビ?」

「……あー、そういや報告書、まだ書けてねぇんだった」

彼は思い出したように立ち上がる。

「コムイに催促される前に、片付けとかねぇとな」


さっきまで、あんなにゆっくり林檎を剥いていたのに。


「その腕、まだ無茶すんなよ」

背を向けたままそう言い残して、ラビは私の返事を待たずに医務室を出ていった。



扉が閉じる。静かな音だったのに、医務室が急に広くなったように感じた。


手の中の林檎へ、視線を落とす。

好きなはずの酸っぱさだけが、舌の上に残っていた。


……何か、いけないことを言ってしまったのだろうか。

彼の背中から引いていった温度が、小さな棘のように残っていた。

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