第8章 【第七話】肩を並べる約束
黒の教団へ戻る頃には、空は淡い夕暮れに染まっていた。石造りの門を潜った瞬間、張り詰めていた身体から少しだけ力が抜ける。
左腕の傷は深くない。ただ、雪道を抜けて長い移動を終えた身体には、疲れが溜まっていた。
気付けば、歩調が僅かに遅れていた。
「ティファ」
すぐ隣から声が落ちる。
顔を上げると、ラビがこちらを見ていた。
「歩けるか?」
「ええ……少し疲れただけ」
ラビは小さく笑って、足を緩めた。
それから、何でもないことのように傷のない方の腕を差し出す。
「ほら、掴まれ」
「……歩けるわよ?」
ラビは、少しばつが悪そうに視線を逸らした。
「たまには、格好つけさせろよ」
私は一瞬だけ迷った。
それから、静かにその腕へ手を添える。
「……ありがとう、ラビ」
「ん」
私が手を添えたまま歩き出すと、ラビも黙って隣へ並んだ。
団服越しに、彼の温度が伝わってくる。
雪原では、あんなに冷え切っていたのに。
石畳を踏む二人分の足音が、少しずつ揃っていく。
揺れる手首の髪紐とボタンに、ラビの視線が一瞬だけ落ちた。
「……なぁ。いつもつけてるそれって、大切なもんなのか?」
「これ?」
髪紐とボタンへ目を落とすと、自然と口元が緩んだ。
「髪紐は母の形見で、ボタンはアレンって子にもらったの。師匠のもう一人の弟子よ」
「……そいつ、男?」
添えた手の下で、彼の腕が僅かに固くなった。
「え……?」
「何でもねぇ……忘れてくれ」
門の奥から、軽い足音が近づいてきた。
「二人とも、おかえりなさい」
リナリーは私たちの傷を見て、眉を寄せた。
「怪我してるじゃない。医務室には、もう連絡してあるわ」
「……助かるさ」