第8章 【第七話】肩を並べる約束
リナリーの後について歩く間も、ラビの腕に添えた手を、なぜか離す気になれなかった。
医務室へ続く回廊で、窓から差し込む夕刻の光が、私たちの影を床へ長く伸ばしていた。
医務室の扉が見えたところで、ラビが足を止めた。
「……なぁ、ティファ」
「何?」
「喉がちゃんと治ったらさ」
彼は私を見ないまま続けた。
「今度、歌……聞かせてくんねぇ?」
「ニルヴァーナの歌を?」
「違ぇさ」
ラビはすぐに首を横へ振った。
「ティファが、歌いたい歌」
私は、何も言えずに彼を見つめた。
「……ええ」
ようやく、声が出た。
「喉がきちんと戻ったら、聞かせるわ」
ラビがこちらを見る。
翠の瞳が、夕刻の光を映して柔らかく揺れた。
「約束だぞ?」
「ええ……約束」
答えると、彼はようやく笑った。軽く見せようとして、少しだけ失敗したような笑顔だった。
「ほら、二人とも! いつまで廊下で話してるの!」
医務室の前から、リナリーの声が飛ぶ。
「今行くさー!」
ラビが慌てて返事をする。
それから歩き出す直前、彼の手が、傷口を避けて私の左腕へそっと触れた。
ほんの一瞬だった。
私は、隣を歩く彼の横顔を見る。
軽口ばかりで、人懐こくて、時折ひどく遠い目をする少年。
彼が何を抱えているのかも、私が彼へ何を感じ始めているのかも、まだ分からない。
ただ、雪原で交わした約束と、廊下で交わしたもう一つの約束だけは、確かな音として残っていた。