第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
ラビは何も言わない。
ただ、翠の瞳が僅かに伏せられた。
私は窓の外へ視線を落とした。
「……救えたと思ったのに」
掠れた声が零れる。
「アンナは生きている。それなのに、あの子の中から大切なものが消えていくのを見ていると……本当に救えたのか、分からなくなる」
暫くして。
ラビが、壁から身体を離した。
「……だからって、ティファが全部背負うのは違ぇだろ」
低い声だった。
私は顔を上げる。
「消えたもんまで、あんた一人の責任にすんな」
言い捨てて、ラビは一度視線を逸らした。
「言っただろ。置いてこなくてよかったって」
胸の奥が、僅かに揺れた。
「ラビ……」
「そんだけさ」
誤魔化すように肩を竦める。
翠の瞳が、私の喉元へ向く。
「それより、今日はもう休めよ。顔色悪ぃし、声も掠れてる」
「よく見ているのね」
私が小さく呟くと、ラビは一瞬だけ言葉に詰まった。
「……そりゃ、見るだろ」
「記録のために?」
問うと、彼の視線が僅かに揺れた。
ほんの一瞬。
けれど、確かに。
「……さぁな」
やがてラビは、誤魔化すように笑った。
「途中で倒れられたら、後味悪ぃからな」
軽口へ逃げるような言葉。
それでも、その声はいつもより柔らかかった。
私はそれ以上追及せず、小さく頷いた。
「……分かったわ。今日は休む」
「よし」
ラビは満足そうに笑う。
けれど、私が歩き出すと、彼も当然のように隣へ並んだ。
「部屋まで来るの?」
「護衛さ。途中で倒れられたら困るだろ」
小さく笑いが零れた。
ほんの少しだけ。
それでも、アンナの瞳を見てから初めて、胸の奥へ息が通ったような気がした。
隣を歩くラビは、私が笑ったことへ何も言わなかった。
ただ、一瞬だけこちらを見て、すぐに前へ視線を戻した。