第8章 【第七話】肩を並べる約束
side:ラビ
出発を翌日に控えた夜。
書庫の奥で、じじいは報告書を捲っていた。
前回の任務。
あの村で起きた異変と、ティファの歌についての記録。
「今回も、同行するそうだな」
「コムイがそう決めたんさ。記録が要るってな」
オレは棚へ背を預けたまま、軽く答えた。
じじいは顔を上げない。数頁だけ目を通したあと、報告書を静かに閉じた。
乾いた紙の音が、書庫の静寂へ落ちる。
「記録者は、観察する。案じるのではない」
笑みが、勝手に止まった。
「案じ始めた時、目は曇る……分かっておるな」
「分かってるって」
いつものように、軽く返す。
じじいはそれ以上何も言わず、ただ黙ってオレを見ていた。
オレは肩を竦め、書庫を出た。
冷えた廊下を歩きながら、無意識に片手を握る。
――案じるな。
分かってる。
少し歩いたところで、オレは足を止めた。
握っていた手を、ゆっくり開く。
掌には、何も残っていない。なのに指先だけが、まだ何かを掴もうとしているみたいに、微かに強張っていた。
「……見るだけにしとけよ、オレ」
呟いた声は、冷たい廊下へ落ちて消えた。