第8章 【第七話】肩を並べる約束
「ティファちゃん。喉の調子はどうかな?」
デスクの向こうで、コムイさんが眼鏡の位置を整えながら尋ねた。
執務室には、相変わらず書類の山と、濃いコーヒーの匂いが満ちている。今日のコムイさんの表情には、いつもの柔らかな軽さが少なかった。
「もう大丈夫です。発動にも問題はないと、医務室から許可をいただきました」
「そうか」
眼鏡の奥の瞳が、静かに私を見る。
「無理をして、平気なふりをしているわけじゃないね?」
その問いが、喉の傷のことだけを聞いているのではないと分かった。
消えてしまった村のことも、アンナのことも、任務から戻ったあと私がどんな顔をしていたのかも。
きっと、コムイさんは知っている。
私は僅かに視線を伏せ、それから頷いた。
「……大丈夫です。任務へ出られます」
コムイさんは小さく息を吐くと、机の上へ一枚の資料を置いた。
「では、次の任務について説明するよ」
私は姿勢を正した。
「今回向かってもらうのは、北東部の山間にある村だ。数日前から、周辺でAKUMAによる被害が確認されている」
「AKUMA……」
コムイさんの指が、資料に記された地図の一点へ触れる。
「現地のファインダーから、レベル1と思われるAKUMAが複数確認されたとの報告が来ている。雪深い地域で避難も遅れているうえ、住民の中には、まだ村に取り残されている者もいるらしい」
資料の上で、指先に力がこもった。
――今度こそ、間に合わせる。