第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
「またそれ言うのかよ」
ラビが、困ったように息を吐く。
「オレは危険だって分かって、残るって決めた。そんで、ティファを守るって言った」
翠の瞳が、真っ直ぐ私を見た。
「だから、これはオレの選択さ」
その言葉に、何も返せなくなる。
ラビは一度だけ、眠るアンナへ視線を落とした。
「……それに」
「……?」
「置いてこなくて、よかったさ」
声は、とても小さかった。
いつもの軽さも。
何かを測るような冷たさもない。
ただ、傷ついた少年が、腕の中に残った命を見て零した言葉のように聞こえた。
胸の奥が、熱くなる。
私は、支えられている腕へそっと指を添えた。
「……ええ」
小さく頷く。
「本当に」
ラビは、それ以上何も言わなかった。
けれど、私が自分で歩けるようになるまで、腕を離さなかった。
朝焼けの薄い光が、村を照らしていく。
人の声を失った家々。
名前を失った墓標。
還ることさえ許されず、苦しみ続けていた魂の残滓を抱えたまま、静かに崩れていく村。
その入口から、私たちは歩き出した。
眠るアンナを連れて。
残された異変の痕跡を持って。
そして、私の歌とどこかで繋がる、歪んだ何者かの影を胸に残したまま。
私はまだ知らなかった。
この村で起きたことが、偶然の異変などではなかったことを。
還るはずの魂を現世へ繋ぎ止めるため。
同じ試みが、既にどこかで繰り返されていたことを。
そして、その先で。
いつか私の歌を必要とする者が、こちらへ手を伸ばし始めていたことを。