第2章 【第一話】雪に残る歌
いつから彼を師匠と呼ぶようになったのかは、よく覚えていない。ただ彼の言葉は最初から短く、容赦がなかった。
母を失って何も喉を通らない私に、師匠は冷えたパンとぬるいスープを差し出して「食え」とだけ言った。食べられないと首を振れば、師匠は眉一つ動かさずに言った。
「食わねぇなら置いてくぞ」
本当に置いていかれると思った。
私は泣きながらパンを齧り、味も分からないスープを飲み込んだ。食べなければ歩けない。歩けなければ置いていかれる。
雪道でも泥道でも、冷たい雨に濡れた街道でも、私は擦り切れた靴でその背中を必死に追いかけた。
何度転んでも師匠はすぐには振り返らない。私が本当に立ち上がれなくなる寸前になると、少し離れた場所で立ち止まり、ただ待っていた。
夜になると何度も同じ夢を見た。
白い雪。母の胸元へ広がった黒い星。灰へ崩れていく指。そして、私の喉から溢れた二つの光。
目を覚ますたび、喉の奥が焼けるように熱かった。
そこに何かがいる。私の意思とは関係なく、確かに息づいている。
それが怖くて、何度も喉元を押さえた。
……もう一度、同じことが起きたら。私はどうなっちゃうの。
そんな不安を抱えたまま、私は師匠の後ろを歩き続けた。
ある日の夕暮れ。
街道の脇に小さな鳥の亡骸が落ちていた。
泥に濡れた羽。冷たくなった小さな身体。母の姿が重なったのかもしれない。私は足を止め、そっと鳥の傍へしゃがみ込んだ。