第2章 【第一話】雪に残る歌
どれほど時間が経ったのか分からない。やがて涙も声も尽き、ただ浅い息を繰り返している私へ、クロスは短く告げた。
「灰を埋めるぞ」
「嫌」
「このまま雪に埋もれさせる気か」
灰は薄く雪に覆われていた。私は雪ごと、母の灰を掬い集めた。
すべてを拾い集めることなどできない。風にさらわれ、雪に混じり、指の間から零れていく。それが苦しくて、何度も涙が溢れた。
クロスは雪の下の土を掘り、母の灰と、彼女が身につけていた布の切れ端をそこへ静かに納める。
髪紐だけは、どうしても手放せなかった。クロスは一度だけ髪紐を見て、黙って土をかぶせた。
白い雪の中に小さな墓ができた。墓標と呼ぶにはあまりにも簡素な、一本の枝だけが立てられている。
私はその前に膝をついた。
「お母さん……」
返事はない。
「お母さん……お母さん」
クロスは、ずっと後ろに立っていた。ようやく顔を上げ振り返ると、彼はもう背を向けていた。
「選べ」
「え……?」
「ここで母親と一緒に凍えて死ぬか、生きるために俺について来るかだ」
――生きるなら、自分で立て。
そう言われた気がした。
私はもう一度、母の墓を振り返る。降り続く雪が、少しずつ私たちの足跡を消していく。足が、動かなかった。
――あなたは、生きて。
その声が、耳の奥で響いた。
母の髪紐を、握り締める。震える足で、立ち上がった。
「待って……」
掠れた声で呟き、クロスの背中を追う。
彼は振り返らなかった。
それでも、歩調だけがほんの少し緩んだ気がした。
それが、私とクロス・マリアンとの旅の始まりだった。