第2章 【第一話】雪に残る歌
「母親の身体は、AKUMAのウイルスに殺された。どのみち、もう助からなかった」
胸が、引き裂かれるように痛んだ。
「じゃあ、私が歌っても……」
「身体は救えねぇ」
容赦のない答え。
「だが、お前は魂を送った」
「たましい?」
「ああ」
クロスの視線が私へ戻る。
「母親の魂をな」
最後に私へ触れるように揺れた、あの淡い光を思い出した。
「私が、お母さんを?」
「伯爵の手が届く前に、ここから送り出した」
また涙が溢れた。拭おうとした手が、止まった。
――たすけて。
「でも、あの怪物の中にも、誰かいた」
クロスの眉がわずかに動く。
「女の子みたいな声が、助けてって」
髪紐の銀細工が、掌に食い込んだ。
「私……あの子まで、殺したの?」
クロスの瞳が鋭くなる。
「違ぇよ。あれはAKUMAだ。人間の魂を縛りつけて動く兵器だ」
私は息を呑む。
「お前が壊したのは、その器だ」
「器?」
「ああ。中の魂まで殺したわけじゃねぇ」
「でも――」
「最後に、何て聞こえた」
息が止まる。
――ありがとう。
本当に小さな、安らかな声。
「……ありがとう、って」
「なら、忘れるな」
クロスは、雪の上に残る異形の痕跡へ視線を向けた。
「そいつの苦しみは、もう終わった」
送ったなんて言われても、嬉しくなんかない。あの子が救われたって、誇らしくなんかない。
母はもういない。腕の中には戻らない。残っているのは冷たい髪紐と黒い灰だけ。私は顔を伏せ、声を殺して泣いた。