第2章 【第一話】雪に残る歌
「あいつ?」
私が問い返すと、男は短く舌打ちした。そして何かを飲み込むように深く息を吐く。
「……そうか。間に合わなかったか」
胸が強く締め付けられる。
私は、やっと唇を開いた。
「お母さんが……」
声にした瞬間、堪えていたものが再び崩れた。
「クロス・マリアンを……探しなさいって……」
「クロス……?」
小さく呟いたきり、男はしばらく黙って私を見ていた。やがて、面倒そうに頭を掻く。
「ああ。俺がクロス・マリアンだ」
――母が最後に託した名前。
「あなたを、探せって……」
髪紐を握る手に、力がこもる。
「でも……お母さんは……もう……」
クロスは、可哀想だとも、大丈夫だとも言わなかった。ただ黙って雪の上に残された灰と、私の手の中の髪紐を見下ろしていた。
「……最後の最後で、とんでもねぇもんを残しやがったな」
やがてクロスは私の傍へ歩み寄ると、膝をついた。
「そいつを見せろ」
「嫌」
私は髪紐を胸へ抱き込む。
……これだけは、取られたくない。
クロスは眉を寄せただけで、私の喉元へ視線を移した。
「歌ったのか」
「分からない……」
涙が止まらない。
「勝手に……声が出て……光が……お母さんも、あれも……消えて……」
「消えたんじゃねぇ」
クロスは目を雪の上の灰に向けたまま、私の言葉を遮った。