第2章 【第一話】雪に残る歌
容赦のない答えだった。
けれど、クロスは続ける。
「だが、お前は魂を送った」
「たましい……?」
「ああ」
クロスの視線が、私へ戻る。
「母親の魂をな」
息が止まる。
母を包んでいた淡い光。
最後に、私へ触れるように揺れた輝き。
あれが、母だった。
「私が……お母さんを……?」
「伯爵の手が届く前に、ここから送り出した」
胸の奥が、大きく揺れた。
母は消えたのではない。
あの光は、母だった。
その事実を理解した途端、また涙が溢れた。
けれど。
ふと、もう一つの声が蘇る。
――たすけて。
私は顔を上げた。
「でも……あの怪物の中にも、誰かいた……」
クロスの眉が僅かに動く。
「女の子みたいな声が……助けてって……」
髪紐を握る手が震えた。
「私……あの子まで、殺したの……?」
クロスの瞳が鋭くなる。
「違ぇよ」
低い声だった。
「あれはAKUMAだ。人間の魂を縛りつけて動く兵器だ」
私は息を呑む。
「お前が壊したのは、その器だ」
「器……?」
「ああ。中の魂まで殺したわけじゃねぇ」
「でも……」
「最後に、何て聞こえた」
息が止まる。
――ありがとう。
本当に小さな、安らかな声。
クロスはそれ以上、何も説明しなかった。
ただ、静かに言う。
「なら、忘れるな」
そして、雪の上に残る異形の痕跡へ視線を向けた。
「そいつの苦しみは、もう終わった」
幼い私には、あまりにも重い言葉だった。
母を送ったと言われても、嬉しくなどなかった。
異形の中にいた誰かが救われたと言われても、誇らしくなどなかった。
母はもういない。
腕の中には戻らない。
残っているのは、冷たい髪紐と黒い灰だけ。
私は顔を伏せ、声を殺して泣いた。
クロスはそれを止めなかった。
どれほど時間が経ったのか分からない。
やがて涙も声も尽き、ただ息を震わせている私へ、彼は短く告げた。
「灰を埋めるぞ」
「嫌……」
「このまま雪に埋もれさせる気か」
冷たい声だった。
けれど、拒めなかった。