第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
ラビの口元が、引き結ばれた。
「……それ、教団へ提出する報告じゃねぇよな」
「ええ」
私は手帳へ視線を落とした。
「私の記録よ」
「自分で残すのか? オレが記録するって言ったろ」
「でも、私も残したいの」
静かに答える。
「報告書には、きっと残らないわ。アンナのお母さんが、最後まであの子へ手を伸ばしていたことは」
ペンを握る指先に、力が入る。
「アンナ自身が覚えていないなら、なおさら。あの子には、確かに大切に想ってくれた人がいたって、私も覚えていたいの」
書庫へ、沈黙が落ちた。
遠くで、古い時計の振り子がかすかに鳴っている。
ラビは机の端へ手を置き、手帳の文字を見下ろした。
「……変な奴」
私は僅かに顔を上げた。
「そうかしら」
「そうさ」
ラビは、手帳から視線を外した。
「普通、そこまで拾ってたら潰れる。残すべきもんだけ残して、あとは切り離さねぇと、次へ進めない」
自分へ言い聞かせているような声だった。
「……あなたは、そうしてきたの?」
問いかけると、机の端に置かれたラビの指が、ぴくりと動いた。
「さぁな」
軽く返す。
こちらへ向いた目だけが、笑っていなかった。
「少なくとも、全部抱えて泣いてたら、ブックマンにはなれねぇさ」
「……そう」
ラビの目が、手帳のアンナの名へ戻る。
「でも……消えたもんを自分から残そうとする奴は、初めて見たかもしんねぇ」
私はペンを置いた。
「……ラビだって、残してるじゃない」
「オレらのは仕事さ」
「記録することと、覚えていることは違うの?」
問い詰めたつもりはなかった。ラビの視線が、私から手帳の文字へ落ちる。