第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
「……違ぇよ。……記録は、必要だから残す。感情なんか混ぜなくても、事実は事実として残る」
「ええ」
「でも、覚えてるってのは……多分、もっと面倒だ」
ラビは小さく笑った。諦めに似た、薄い笑みだった。
私はそっと手帳を閉じた。
「それでも、私は覚えていたいわ」
「……だろうな」
ラビは、困ったように息を吐いた。
「ティファは、そういう顔してる」
「どんな顔?」
「見つけたものを、簡単には手放せねぇ顔」
思いのほか近くで聞こえた声に顔を上げると、ラビの翠の瞳が私を見ていた。
初めて会った時と同じ、観察するような目。その奥で、あの乾いた音とは違う何かが、静かに揺れていた。
私が言葉を返せずにいると、ラビはふいに視線を逸らした。
「……ほら、もう書き終わったなら戻るぞ」
「まだ少しだけ――」
「駄目さ。今日は休むって言っただろ」
「覚えていたのね」
「そりゃ覚えてるさ。あんな顔で頷かれたらな」
返された声は、少しだけぶっきらぼうだった。
私は、肩の力を抜いた。
「……分かった」
そして手帳を胸元へ抱え、椅子から立ち上がった。
ラビも何も言わず、隣へ並ぶ。
書庫を出る直前、横から視線を感じた。顔を向けると、ラビは目が合った途端、何事もなかったように笑った。
「ほら、行くさ」
その声に促され、私は彼と並んで書庫をあとにした。
背後では、古い時計の振り子だけが、変わらない音で静かに時を刻み続けていた。