第6章 【第五話】存在を繋ぐ歌
「それでも」
母の歌を。私の力を。魂を救うためのものを、こんな形で歪める者がいるのなら。
目を逸らすことはできなかった。
「知らないままではいられません」
ブックマンは、閉じたばかりの台帳に、もう一度指を置いた。
「……その言葉も、記録しておこう」
それだけ言うと、彼は歩き出した。
私も後へ続こうとして、二歩目で膝から力が抜けた。倒れかけた腕を、ラビが掴む。
片腕にアンナを抱えたまま、もう一方の手で私の腕を支えている。
「ほら見ろ。やっぱ限界じゃねぇか」
「……少し、足がふらついただけよ」
「それを限界って言うんさ」
言いながら、ラビの手に少し力がこもる。
傷を負っているのは彼の方なのに。
支えられている自分が、情けなくて、苦しかった。
「ごめんなさい。私のせいで、あなたまで怪我を……」
「そこまで自分のせいにすんなよ」
ラビが、困ったように息を吐く。
「オレは危険だって分かって、進むって決めた。そんで、ティファを守るって言った」
翠の瞳が、真っ直ぐ私を見た。
「だから、これはオレの選択さ」
その言葉に、何も返せなくなる。
ラビは一度だけ、眠るアンナへ視線を落とした。
「……それに」
「……?」
「置いてこなくて、よかった」
独り言のような、小さな声だった。
「……ええ。本当に」
私は、支えられている腕へそっと指を添えた。
それきり黙ったまま、ラビは、私が自分で歩けるようになるまで腕を支えていてくれた。
朝焼けの薄い光が、村を照らしていく。
人の声を失った家々。名前を失った墓標。
還ることさえ許されず、苦しみ続けていた魂の残滓を抱えたまま、静かに崩れていく村。
その入口から、私たちは歩き出した。