第52章 【第四十七話】欲しかった言葉
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森を出る頃には、呼吸もだいぶ落ち着いていた。
病室の扉を開けた。
面会時間は、まだ終わっていなかった。
ベッド脇の椅子は、いつもの場所にあった。
……空のままだった。
ここへ戻るまで、少しだけ期待していた。
あんなふうに突き放したのは、私だ。
それでも、あの人なら来ると思っていた。
……だって、あの人はそういう人だから。
網に捕まっても、点滴を抜いて怒られても、毎日あの椅子に座りに来た人だ。
あんな言葉をぶつけた後でも、きっと今夜あたり、ばつの悪そうな顔で「よ」なんて言いながら――。
そこまで考えて、やめた。
来ないかもしれないことくらい、分かっていたはずなのに――。
ベッドに入ってからも、廊下を通る足音のたびに、無意識に耳を澄ませた。
どの足音も、この部屋の前では止まらなかった。
来られない理由なら、いくらでも思いつく。
襲撃の記録。移転の準備。ブックマンが療養している今は、仕事だって増えているはずだ。
どれだけ理由を並べても、最後には「私があんなふうに突き放したから」へ戻ってくる。
そう気づいたところで、考えるのをやめた。
なら、私から行けばいいじゃない。
謝るなり、続きを話すなりすればいい。
……何を謝るの?
言いすぎたことは謝れる。
でも、言ったことが間違っていたとは、今でも思えない。
そう思ったまま謝りに行けば、きっとまた同じ話になり、同じことを言ってしまう。
あの人が私を想ってくれているのは、分かっている。
分かってるのに――。
もしまた、あの人が一人で何かを決めて、私から離れようとしたらと思うと、胸の奥が冷えた。
そんな言葉を聞くくらいなら、今は行かない方がましだ。
そう決めると、胸の苦しさがほんの少しだけ軽くなった。
それが、嫌だった。
やがて消灯の鐘が鳴り、部屋の灯りが落ちた。