第52章 【第四十七話】欲しかった言葉
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その日の午後、リナリーが顔を出した。
「聞いた? 本部の移転先、正式に決まったんですって」
「……そうなの?」
「ええ。日取りはこれからだけど、兄さん、朝から書類に埋もれてたわ」
リナリーは肩をすくめて笑った。
「科学班なんて、荷造りって言いながら半分は発掘作業になってるし」
「……何それ」
思わず笑ってしまった。
帰り際、リナリーは扉の前で足を止めた。
「……ねえ。ちゃんと食べてる?」
「食べてるわ」
「そう? ならいいけど」
何かを言いかけたものの、リナリーは結局何も聞かなかった。
「じゃあ、また来るわね」
扉が閉まる。
……皆、気づいている。
気づいたうえで、聞かずにいてくれる。
その優しさが、今は少しだけ息苦しかった。
*
その夜も、ベッド脇の椅子は空いたままだった。
前の夜は、廊下を通る足音を数えた。
今夜はもう、数えなかった。
食事の膳も、少しずつ残すようになっていた。
廊下に人影が通るたび、赤い髪を探している自分に気づく。
探している自分に気づいて、目を逸らした。