第51章 【第四十六話】かたちにならないもの
翌朝。
案内された地下の空洞には、まだ襲撃の傷が残っていた。
崩れた岩肌には仮設の足場が組まれ、空気には薄く石埃の匂いが混じっている。
「じゃあ、始めようか」
コムイさんの向こう。
暗がりの奥に、白い巨大な影が佇んでいる。
ヘブラスカ。
『ティファ』
低く響く声が、身体の内側から聞こえるようだった。
『イノセンスを発動してくれ』
私は頷き、目を閉じた。
喉へ手を当てる。
「……ニルヴァーナ」
呼びかけた瞬間、喉の奥に熱が灯った。
そこから腕を伝い、指先へ流れていく。
いつもの感覚だった。
光が生まれる。
白銀の輝きが手の中へ集まり、見慣れたレイピアの柄を形作る。
刃へ伸びかけて――ほどけた。
「……え」
光が、指の間から零れて消える。
手の中が急に軽くなった。
あるはずの重みがない。
私は手を見つめる。
指を閉じても、何も掴めなかった。
もう一度。
「……ニルヴァーナ」
今度は、さっきより強く意識する。
もう一度、喉に熱が灯る。
腕を通り、指先へ。
光が集まった。
一瞬、柄の形を取る。
けれど、刃へ伸びる前にまた砕けた。
「……」
息を吸う。
「ニルヴァーナ」
三度目も、同じだった。
喉元の紋章だけが、応えるように熱を持っている。
――ちゃんと、いるのに。
生まれた光は揺らぎ、形になる前に消えていく。